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【本の情報】 素手のふるまい アートがさぐる〈未知の社会性〉 鷲田清一さん





■ゼロから築くゆるく深い関係


 問題が起きる現場で対話しながら考える「臨床哲学」を開拓した哲学者が、正面からアートを論じた。私たちの「存在を塞ぐもの、囲い込むもの、凝り固まらせるものへの抗(あらが)いとして」のアート。その担い手たちを追いかけた。

 東日本大震災がなければ書かなかった本だ。震災は、確かなものに見えた都市システムのもろさを暴いた。電気、食べ物、資材を外部に頼っていて、非常時には原発も経済も制御不能に陥る。「生存の基盤となるものをコントロールする仕組みをゼロから考えないといけない」と感じた。

 そんな時、アーティストやその卵たちが、被災地でアートをゼロから立ち上げていく姿を目撃した。手厚く描くのが、住民の記憶を映像作品にまとめた小森はるかさんと瀬尾夏美さん、そして住民に設営などを助けられながら写真作品を仕上げた志賀理江子さんだ。彼らはアーティストとしてではなく、そば屋や写真屋として労働力を捧げる日常を住民と共にするなかで、深いつながりを築いた。その傍ら住民の話をひたすら聞き、記録した。「わからない」他者との出会いに自らを開くことを通じ、いつしか自己表現を超えた作品を紡いでいた。

 生きるためにアートは本当に必要なのか、という問いに「素手」で向き合う姿。彼らが備えていたのは、あらかじめ共有するゴールはなくとも、ゆるやかだがもろくはない人間関係を編み、ともに何かを作り上げていく技だ。「今社会に何が必要で何を立て直さないといけないのか、正解はなく、さまざまな見え方や感じ方をすり合わせていくしかない。その時に我々が持たなくてはいけない社会的態度が、アートの中にある」

    ◇

 朝日新聞出版・1728円






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