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【本の情報】 『集団的自衛権と安全保障』豊下楢彦・小関彰一(岩波書店)_:早瀬晋三の書評ブログ


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「「他国防衛」のための戦争が日本の安全を高める、という論理を根底から問い直す」と帯にある。本書の1節でも理解している国民が大多数を占めれば、本書は無用の長物になる。だが、現状は首相の「国民に分かりやすく」のことばを信じているのか、そもそも関心がないのか、とくに戦場にかり出されるかもしれない若者に、著書の悲痛な叫びは届いていないだろう。


本書の「はしがき」だけでも読めば、帯の裏にあるつぎの文章の意味がわかるはずだ。「問題は、過去半世紀以上にわたり歴代自民党政権によっても憲法違反とされてきた集団的自衛権の行使を、解釈変更によって可能であると国民に広く訴える歴史的な記者会見において、安倍首相が全くの“架空のシナリオ”を持ちだし、しかも……“情感”に訴える手法をとったことである。これは「国民に分かりやすく」するためのレトリックどころか、人を欺くトリックそのものであり、これに政界、メディア、世論が翻弄されているならば、安倍首相の罪は限りなく重い」。


「はしがき」の見出しを抜き出すと、つぎの通りになる。「?架空のシナリオ?を語る安倍首相」「ミサイルの脅威と原発「再稼働」」「「限定的かつ受動的」な機雷掃海」「「海外派兵はいたしません」」「「軍事オタク」の典型事例」「なぜ手段が自己目的と化すのか」である。このような「国民に分かりやすい」説明を許してきた野党の罪も限りなく重い。


安倍首相が「国民に分かりやすく」「安全保障」の必要性を主張する背景に、「中国の脅威」がある。だが、大国化する中国が、大国アメリカが享受してきた「例外」の地位を利用する危険があるから「脅威」となることを、著者はつぎのふたつの例をあげて説明している。国連海洋法条約は「「海のルール」を象徴するものであるが、実は先進国のなかで唯一米国だけが批准していないのである。批准に反対する米上院の言い分は、米国の主権への「受け入れがたい侵害」であり、何よりも米海軍が「単独行動をとることが阻害される」から、というのである」。「こうした議論立てが、ルールを無視する中国の行動の正当化に利用されるであろうことは言を俟たない」。


もうひとつは、「宇宙基本法」である。「宇宙の軍事利用でも、米国は「行動の自由」を享受するため長年にわたって国際的な規制に反対してきたのであるが、中国が本格的に「宇宙軍拡」に乗り出してくる状況において、何らかの対応に迫られざるを得ないのである。また、サイバー攻撃でもロボット兵器でも、米国が「例外」の地位を利して単独先行してきたのに対し、中国が急速に追い上げて米国に脅威を与えるという段階に迫りつつある」。日本がいま考えなければならないのは、大国の横暴をどう抑えるかであって、大国とともに「例外」を享受することではない。


さらに日本は、これらの大国の軍拡競争に加わろうというのであろうか。少子高齢化で、巨大な財政赤字を抱える日本が、国家予算を軍事費にまわす余裕などないはずである。いま1国だけで解決し得ない多くの問題を抱えていることを、著者は本書の最後で強調している。地震に原発事故が重なる「複合災害」、PM2・5などの大気汚染、鳥インフルエンザなどの感染症、気候変動にともなう災害など、各国が軍事費をまわして解決しなければならない「複合的かつ長期的、ひょっとすると人間存在そのものの問題になりつつある」深刻な状況が迫っているのである。


本書は、つぎのことばで締めくくられている。「地球の地唸(じうな)りが聞こえてくるのではないか。領土や島、しかも無人の島を争っている時代ではない。それはいまの脅威にとってあまりにも小さすぎるし、無意味だ。安全保障観の根本的転換が求められている。圧倒的多数の、国を超えた人類がいまだ経験したことのない「不安」、いわば底知れぬ「複合不安」から脱却しうる安全保障を求めているのである」。


日本は、戦後、軍事費を経済発展のためにまわすことで、「奇跡の経済成長」を遂げた。軍事費を使わないことの意味を、充分に知っている国である。安倍首相のいう「安全保障」のために、消費税だけでなくいろいろなところで増税がはじまっている。それは、1機100億円以上するオスプレイだけでも、今後5年間に17機導入することが決められているからである。日本国民だけでなく、地球市民がいま地球が抱えている問題解決のために、軍事費をまわすことを考えれば、戦争への脅威もなくなる。その先頭に立てるのが、憲法9条の恩恵を長年享受してきた日本人であるはずだが、その恩恵に気づいていないのだろうか?

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