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【本の情報】 ポピュリズムとは何か [著]ヤン=ヴェルナー・ミュラー






■異論を認めない「反多元主義」


 近年、ポピュリズムという言葉をよく耳にするようになった。5月に行われたフランス大統領選の際も、マリーヌ・ルペン候補が代表的なポピュリストとして注目された。しかし、この言葉が何を指すかは明確ではなく、多用される「大衆迎合主義」という訳語にも問題がある。

 本書は、「ポピュリズムとは何か」という問いに明快に答える。ポピュリズムの本質的な特徴は「反多元主義」にある。それは、自分たちだけが「真の人民」を代表していると主張する思想・運動を指す、と。

 既成の体制を打破しようとする「反エリート主義」や移民排斥を掲げる「排外主義」は、「真の人民」とそうでない者との線引きは多様でありうるという点で、ポピュリズムを定義するのに十分な基準ではない。また、ポピュリストは、人々との直接的な結びつきを重視するものの、代表制を否定しないし、特定の社会経済的な集団を支持基盤とするわけでもない。

 ポピュリズムを権威主義などから区別する特徴は、道徳主義的な反多元性にある。「真の」(道徳的に正しいとされる)人民を排他的に代表している以上、いかなる反対派もその正統な代表ではありえない。異論を認めないこの反多元主義こそが、あらゆる立場に対等な発言権を保障すべき民主主義を脅かす。

 ポピュリズムは、民意を置き去りにする政治に抗し、民主主義をその制度的硬直から救うとする、有力な議論もある。それに対して、著者は、ポピュリズムを民主主義にとっての「真の脅威」と見る。それは、民主主義の内部から生まれるが、ナチズムがかつてそうであったように、特定の人々から市民としての対等な地位を剥奪(はくだつ)し、民主主義の条件を掘り崩していく。

 人民を単一、等質の実体であるかのように描くことにポピュリズムの真の問題がある。著者のこの見方は、人民は単数形ではなく、つねに複数形でとらえられるべきであると強調したH・アーレントやJ・ハーバーマスにつらなるものである。

 東欧、トルコ、中南米に目を転じると、ポピュリストは反体制ではなくすでに体制の側にある。再来するポピュリズムの脅威を理解するためには、それを病理的なものとみなすのではなく、人々が世界各地でその台頭と存続を許しているのはなぜかを実証的にも探る必要がある。

 「人民」の構築ではなく、「多数派」の形成を、という著者の主張には異論もありうる。それでも、ポピュリズムを的確に定義し、民主主義は多元性を失ってはならないとする本書の議論には十分な説得力があり、アメリカ、日本の現政権を理解するうえでも示唆に富む。

    ◇

 Jan-Werner Muller 70年、ドイツ生まれ。米プリンストン大政治学部教授(政治思想史・政治理論)。著書に『カール・シュミットの「危険な精神」??戦後ヨーロッパ思想への遺産』。







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