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【本の情報】 金子兜太の生き方句にぶんなぐられて気分よし 嵐山光三郎








2月20日、98歳で亡くなった俳人の金子兜太さん=2015年12月、西田裕樹撮影





 金子兜太氏は野生の人で、なまなましく生きて、句にケダモノ感覚がある。花鳥風月が嫌いな人だった。句にぶんなぐられたけれど気分がいい。

 二〇一二年、兜太氏(当時九十二歳)が主宰する俳誌「海程」五十周年記念祝賀会があり、百四十人の野生的客人が集まった。まず藤原作弥さん(元日本銀行副総裁)が日銀時代のヒラ社員史を語った。組合活動にかかわり、福島、神戸、長崎の支店にとばされた。

 とばされたって日銀だろ、と野生的客人はブーブーと文句をいった。つづいて、トラック諸島に赴任時代の上官だった西澤実さんが「金子君はな、戦争に負けそうなトラック島で、陸海軍合同俳句会をやったとんでもねえ野郎だァ」と大声で演説した。そのときにつくったのが、魚雷の胴にトカゲが這(は)い回ってるって句だ(魚雷の丸胴蜥蜴這い廻りて去りぬ)。しばらくすると薄っぺらい俳句誌を送ってきやがって、それが「海程」創刊号だった。(拍手)。それがなんだ、五十周年号は机の上に置くと、「広辞苑」みたいに立つよ。(拍手、拍手)。

 つづいて有馬朗人さん(元東大総長)が「東大時代の金子さんはとびぬけて優秀な成績を残しています」と報告すると、隣席の芳賀徹さんが「そんなはずはないだろ」とドラ声をあげた。私の右側にいた宇多喜代子さんは「かつて宇多喜代子をバイ菌から守る会がありました。バイ菌とは前衛俳句と呼ばれた金子兜太さんです」。ズケズケと遠慮なくいうところが俳人の景気のよさだ。

 芳賀さんが「バイ菌って言葉なつかしいですな」とつぶやき、有馬さんも「じつにいい言葉だ」とうなずいて、バイ菌、バイ菌バンザーイとなったところで、小沢昭一さんの音頭で万歳三唱をした。



■欲望のままに



 『他界』は、トラック島での戦争体験から、定年直前までの「定住漂泊」の心情を語っている。社会に「定住」しつつ一茶や山頭火のような「漂泊」に生きる。

 《定住漂泊冬の陽熱き握り飯》(一九七二年)

 九十九里浜の病院にいる妻を見舞いにいったときの吟、

 《癌と同居の妻よ太平洋は秋》

 人の死を「消滅ではなく他界」と信じている。肉体が消えても精神は永遠だ。二〇〇四年に一〇四歳で他界した母を思い出して

 《長寿の母うんこのようにわれを産みぬ》

 『小林一茶』は句による評伝で、一茶の約九十句を解説している。欲望のまま自由に生きた一茶の「荒凡夫(あらぼんぷ)」ぶりを兜太氏はめざした。

 『金子兜太の俳句入門』は、芭蕉や中村草田男から、高校生の句(古池に蛙とびこみ複雑骨折)まで引用して、生活実感やユーモアの骨法を説く。自作「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)どれも腹出し秩父の子」を自慢するところがいい。



■天からの言霊



 兜太氏は高齢化社会のアイドルとなって、晩年は、多くの本が刊行された。『他流試合俳句入門真剣勝負!』(金子兜太、いとうせいこう著、講談社+α文庫・961円)は、いとうせいこうさんがまえがきで「こてんぱんにノサれた」と独白する痛快な対談集。

 『存在者 金子兜太』(黒田杏子編著、藤原書店・3024円)は「そのまま」で生きていく人間を「存在者」と規定する。「被曝(ひばく)福島」と題して

 《魂(たま)のごと死のごと福島紅葉(もみじ)して》(二〇一七年)

 兜太名句は三十句ほど暗記しているが、一番好きな句は、

 《脳天や雨がとび込む水の音》(二〇〇八年)

 で、ノウテンという言葉の響きに雨が降り落ちる音が重なっている。芭蕉の言霊(ことだま)が天から降ってきた。

    ◇

あらしやま・こうざぶろう 作家 42年生まれ。『悪党芭蕉』で泉鏡花文学賞、読売文学賞。








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