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【本の情報】 (悩んで読むか、読んで悩むか)少年少女の生き方に本物の輝き 穂村弘さん








 ほむら・ひろし 62年生まれ。歌人。近刊に、書評集『これから泳ぎにいきませんか』など。





■相談 人間関係に役立つ本を贈りたい



 50歳の父親です。長男が今春、中学生になります。入学祝いに本を贈りたいと思っていますが、自分自身は中学生の頃、本を読んでいなかったので、どんなものを薦めていいのかわかりません。長男はこれまで受験勉強に集中していました。中学に入って人間関係に役立つもの、その後の人生に役立つものがいいと考えています。

 (横浜市、公務員、男性・50歳)



■今週は穂村弘さんが回答します



 楳図かずおの代表作である『漂流教室』をお薦めします。一つの小学校が巨大な地震の衝撃によって人類滅亡後の未来にとばされてしまう、というSF的な漫画作品です。

 小学校六年生の主人公高松翔が仲間たちと助け合い、時には激しく対立しながら、砂漠化した世界の中で生き抜いてゆく様子が描かれています。

 「いったいだれが、こんな世界にしちまったのだっ!?」

 「わかりきったことじゃないか!! こんな世界にしてしまったのは、ぼくたちの親やぼくたちの仲間さ!! 自分かってに、未来の分まで使い果たしていい思いをしたからさ!!」

 予言的とも云(い)える世界像を背景に、閉ざされた小学校の内部では、飢餓、伝染病、デマ、差別、集団自殺、宗教的対立、戦争といった人類レベルの問題が発生します。それは現実の世界の縮図であり、少年少女の生き方には、彼ら自身の命はもちろん、人類の運命がかかっているわけです。その姿、一人一人の振る舞いに感動せずにはいられません。ここに描かれた友情、信頼、愛、勇気、使命には本物の輝きを感じます。

 例えば、盲腸になった主人公を助けるために同級生たちが手術を試みるシーン。執刀している少年が気を失いそうになった時、横でサポートしていた少女は「しっかりしてっ!!」と云いながら彼の顔に唾(つば)を吐きかける(両手がふさがっているので)。そして「みんなもがんばってちょうだいっ!!」と叫びます。血まみれの作業をついにやり遂げた後で、少年は少女に声をかけます。

 「きみ、ありがとう!! きみがいなければ、とてもここまではやれなかった!! きみの名まえはなんていうの!?」

 「杉山恵子です!!」

 この名乗りの美しさに心が震えます。そして、初めて二人は握手を交わす。まず名刺交換から始まる大人の世界がくすんだものに見えてきます。本作は「人間関係」や「人生」を考えるきっかけとして最高のものと信じます。

    ◇

■「悩んで読むか、読んで悩むか」は今回で終わります。

 回答者は、次のみなさんでした。

 石田純一(俳優)、荻上チキ(評論家)、斎藤環(精神科医)、壇蜜(タレント)、穂村弘(歌人)、三浦しをん(作家)、水無田気流(詩人)、山本一力(作家)、吉田伸子(書評家)。(敬称略)








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