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【本の情報】 遺伝子―親密なる人類史(上・下) [著]シッダールタ・ムカジー






■革命的成果の壮大な絵巻物



 以前、あるパネル討論で「星と人間を同じ視点で語れるのが科学のすばらしさだ」と発言したら、同席していた社会科学者から「そのどこがおもしろいのかまったくわからない」と返されたことがある。

 そこに〈自分〉の物語が加わっていれば、少しは納得してもらえていただろうか。この『遺伝子』は、前作『がん』でピューリッツァ賞を受賞した俊英ムカジーが、科学と自己と家族のアイデンティティーを賭けて描いた、壮大な絵巻物である。

 話は、アメリカに住むムカジーが遺伝性の精神疾患を患ういとこを故郷インドに訪問するところから始まる。彼の家系には、同じ疾患の伯父がさらに二人いる。著者と家族に押された遺伝子の烙印(らくいん)。

 これら家族の思い出が、いわば〈遺伝子と日常生活の交差する場〉として随時呼び出されつつ、メンデルとダーウィンから始まる遺伝子探求の歴史が語られる。二〇世紀初頭の遺伝子概念再発見と確立。二〇世紀半ばのDNA二重らせん構造の発見。二〇世紀末のヒトゲノム計画。これらの革命的な成果は、どのようにして達成されたのか。関わった人たちの、時にどろどろした人間関係も含めて、知的営為の系譜が明快に描かれる。

 ムカジーがさらにすばらしいのは、〈科学〉と〈自分〉の間に、必ず〈社会〉を挟み込むことだ。遺伝に関する科学的理解が深まるたびに、優生学や遺伝病スクリーニングや遺伝子治療といった社会的応用も進み、一方でそれらは多くの差別と犠牲者も生んできた。科学技術の光と影は、相互に不可分である。

 最後に語られるのはゲノム工学の現状だ。ヒトの受精卵を自由に改変する技術は、ほとんど可能な段階にある。新たな倫理観が必要とされる時代に、ぼくたちは直面している。

 読後、さまざまな印象が残るが、三つだけ記しておきたい。ひとつは、遺伝子と表現型の関係はとても複雑だということ。単純に良かれと思って遺伝子を操作することは、予期せぬ帰結をもたらしかねない。次に、病気と健康、異常と正常は本質的に決まるのではなく、遺伝と環境のミスマッチの現れだということ。そして最後に、遺伝子の強力な影響にもかかわらず、ぼくたちの日々の生活は大いなる偶然の上に成り立ってもいるということ。遺伝子がすべて同じ一卵性双生児でも異なる人生を歩むのは、多種多様な偶然が大きく作用するからだ。

 誰もがかけがえのない人生を、かけがえのないやり方で送っている。そのこと自体に価値がある。このメッセージを明らかにしてくれた科学と、届けてくれたこの本に、感謝したい。

    ◇

 Siddhartha Mukherjee 70年、インド生まれ。医師、がん研究者(血液学、腫瘍〈しゅよう〉学)。コロンビア大メディカル・センター准教授。『がん』はデビュー作。








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