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【本の情報】 ナサニエル・ホーソーン「緋文字」 桜庭一樹が読む








Nathaniel Hawthorne(1804~64)。米国の作家





■倫理って絶対? 問い今も



 「真であれ、真であれ。真の姿を世に見せよ」

 海外ドラマを観(み)ていても、実在の大統領のスキャンダル記事を読んでいても、「アメリカ文化は不倫に厳しいなぁ」と感じることしきりだ。一方フランスでは、大統領に愛人が山盛りいてもそんなに叩(たた)かれない。新大陸と旧大陸では、倫理観になにか違いがあるんだろうか?

 十七世紀初頭、英国の清教徒がはるばる海を渡り、アメリカ大陸に入植した。これが現在のアメリカ合衆国の始まりだ。彼らはマサチューセッツ州セイラムに町を作り、根を張った。著者ホーソーンはこの初期入植者の六代目の子孫。本書は一六四〇年代のセイラムを舞台にしたサスペンスフルな物語で、初期アメリカ文学の金字塔だ。

 ヒロインのヘスター・プリンは、年上の夫に先立って新大陸に渡り、夫を待つ間に、不義の子を身籠(みごも)ってしまう。スーパーマンのSみたいに、不倫(adultery)の頭文字Aを刺繍(ししゅう)した赤い布を胸に縫いつけられ、幼子とともに刑台に立たされる。秘密の恋の相手はなんと、皆の前で彼女を糾弾する若い牧師! そのことに気づいているのは、遅れて新大陸に着いた彼女の夫だけ。女は必死で牧師を庇(かば)い、夫は復讐(ふくしゅう)に燃え、そして……。

 物語の影の主役は、牧師ディムズデールだ。彼は姦通(かんつう)の罪を犯したことに怯(おび)えて、のたうち回って苦しむ。「倫理や信仰は大事だが、絶対じゃない。もっと人間らしく生きよう」と訴える女と、執拗(しつよう)に責めてくる夫に挟まれ、生き地獄に陥る。そのあげく、牧師はついに……!?

 本書を読むと、アメリカの歴史が、厳しい倫理観を持つ清教徒によって始まったこと、それが現在の社会に強い影響を及ぼしていることが、身にしみる。

 そして、本書がいまも読み継がれているのは、ヘスターの掲げた問題提起に、私たちがいまだはっきりと答えられていないからなのだ。“倫理”と“人間らしさ”が共同体の両輪であるべきなのに、なぜそれがこんなに困難なのか、と。(小説家)








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